<表紙/浜名湖の魚/すずき/かつお/めばる/めじな/やりいか/まごち/かわはぎ/鮎仔>
夏の魚
-『食材魚貝大百科③』に所収-
いさきのウンチク
・スズキ目イサキ科。
・イサキ科(全145種)で、暖かい海域に棲むことが多いイサキの仲間の中では最も北にいるイサキである。似ている魚であるシマイサキは別の科であり(シマイサキ科)、コトヒキもシマイサキ科。アカイサキはハナダイ科。意外とコショウダイがとても近い(イサキ科コショウダイ亜科コショウダイ属)。イサキはスズキ目イサキ科コショウダイ亜科イサキ属。イサキ属にはイサキ一種しかいない。
・学名の「Parapristipomatrillineatum」は、「Pristipomaに近い(=para)/三本の線がある」の意だが、「Pristipoma(最初の果実)」はイサキ属の総称。「三本の線」は幼魚の頃に現れる3本の縦縞に由来する。記載者はカール・ツンベルク(1793年)。
・三本の線は成魚になると消滅する。
・和名は「伊佐幾」「伊佐木」「鶏魚」。「いさき」は東京地方での呼び名だが、全国的には「いさぎ」と呼ぶ方が多いそうである。名の由来として「磯の魚」とか「魚の岬」とか「斑の魚」とか「磯の字そのものがイサキである」とか諸説あります。
・成長に応じて呼び名の変わる出世魚であるが、この魚は日本全国で分布域が広くて地方名がとても多いため、出世名の推移は(他の出世魚に比べて)とてもわかりづらく、ほぼマニアしか知らない。
・「イサキには魚としての特別感が無いので出世魚ではない」という人がいる。
・異名/地方名;イサギ(東京/東北)、エサキ(東北/北陸/山陰)、イッサキ・一先(九州)、イセギ(高知)、オクセイゴ(東北)、クロブタ(神奈川)、ウズムシ(和歌山)、マツ、トビ(三重)、ハタザコ・ハンザコ・ハンサク(高知/大分/鹿児島)、コシタメ(静岡)、カジヤゴロシ(和歌山)、三味線(広島)、
・外洋の岩礁にいる魚でとてもおいしい。刺身でも塩焼きでも干物でもとてもおいしい。幼魚は浜名湖内の湖口付近にうようよいる。
・イサキは回遊魚ではなく、ほぼ同じ海域で一生を過ごすが、成長段階と季節によって海の中を移動する。
・岩礁地帯にいる魚であるが、根魚というよりは地点を移動する魚。流れの良い潮流のぶつかり合う高根を好む。ブリやカンパチなどの捕食者よりは泳ぐスピードが遅いため、あるいは泳ぎの遅いサメやハタに対抗するために群れをなす。釣り人にとってはイサキは一匹釣れると次々と釣れる魚。
・成長が遅い魚。1年で12cm、2歳で20cm、3歳で24cm、4歳で30cm。寿命は20年を越えるであろうとみられる。
・公式?な最大記録は2003年3月高知県橘浦沖で釣られた70.2cm。
・産卵期は6月~8月。2~3歳から産卵できる。
・小型のイサキは大きな群れを作るが、魚体が大きくなるにつれて群れは小さくなり、しかし大型のイサキでも小さく群れている。
・「居着きのイサキ」もいる。居着きは脂のよく乗った個体になりやすい。
・よく似た魚のシマイサキやコトヒキは浜名湖の奥の方にもいる。コショウダイもイサキ科。
・幼魚はその模様から「うりぼう」と呼ばれる。
・和歌山県の鍛冶師がイサキの骨が喉に刺さり死んだ故事があるので「鍛冶屋殺し」という異名がある。あるいは「イサキを調理すると骨が硬くてすぐに庖丁が欠けるので鍛冶屋が忙しくて困る」とか「鍛冶屋自慢の逸品でもイサキの骨には泣く」とか諸説ある。
・英名は「Chicken grunt」で、「(豚のように)グーグーと鳴く鶏」の意。「grunt」がブタのうなり声を表す単語。日本でも英語圏でもイサキのあだ名は共通して「チキン」で、これは決して味や食感に由来していることではなく、「背びれの棘条が鶏の鶏冠に似ている」から。決して「味が鶏肉に似ているから」ではない。しかし食味は鶏肉に似ている(と思う)。
・赤く見えるが白身魚。
・釣れたばかりはコリコリと固くて美味しく、1~2日寝かせるともっちりとした食感となり旨味が増す。
・大きくても小さくても美味しい魚。。30cm前後が一番美味しいといわれるが、50cmを越える大きなものもおいしいという。逆にウリボウ(幼魚)もかなり美味しいそうである。
「巨大なイサキを買う必要があるのか、と言われると、あるとしか言いようがない。脂ののりが違い、うま味も普通サイズよりも豊かだ。旬には皮の直下に白い脂の層ができる。普通サイズと大型ではこの脂の厚みからして違う」(ぼうずコンニャク『日本の高級魚事典』(2022))
・市場での取引価格は大きければ大きいほどはねあがる。普通サイズ(20~30cm/500gぐらい)は平凡な値段。1kg(40cm)を越えると高級魚。2kg(50cm)を越えると超高級魚になる。
・「イサキは北向きで食べろ」・・・イサキは骨が硬くて鋭いから気をつけろ。下手すると死ぬぞ。
・「イサキの生き腐れ」・・・一般に魚の鮮度を見分けるとき、「目がにごっているかいないか」が判断の基準になるが、イサキの場合いかなる場合も目に透明度がないため(オリーブ色の目)、美味しいイサキでも常に目は濁っている。腐ってないんだよという警句。でもだからといってイサキはとて足が早い魚。
・大分県の佐賀関(速吸の瀬戸)には関サバ、関アジと並んで関イサキというブランド魚がある。
・漁獲高の第一位は長崎県。
・五島列島の小値賀島のブランド魚は「値賀咲」という名前。イサキを一本釣りで丁寧に釣って丁寧に活き締めする。
・神奈川県の江ノ島は大型のイサキが釣れる場所として名高い。
・ブランドいさきの共通点として、「撒き餌を使わず、疑似餌で釣る」というのがある。イサキの胃の中に入った生き餌が、やがて「魚くささ」のもとになるからだという。ルアーで釣ったとしてもその直前に何を食べていたのかも分からぬのに、それがブランドの価値になるのはフシギ。
・麦藁イサキ・・・5~6月頃のイサキが産卵直前にエサを食べまくり栄養を蓄えるので、一番おいしいという。ちょうど麦が収穫期を迎える頃なので、この時期のイサキを「むぎわらイサキ」と呼ぶ。「麦わら鯛」(=おいしくない)と対比されることもある。
・梅雨イサキ。「梅雨のイサキはタイよりうまい」。